原稿を書き上げたあと、思いがけず時間を取られるのが体裁です。縦書きか横書きか、枚数はどう数えるのか、括弧のあとに句点は要るのか——内容と関係のないところで、投稿が一段階止まります。
この記事は、その手前で迷わないための整理です。原稿用紙の数え方、縦書きが要る場面と要らない場面、そして応募でよく減点される書式の癖をまとめます。
原稿用紙換算の正体
「四百字詰め原稿用紙換算で百枚」という指定は、いまでも広く使われます。ただしこれは物理的な紙の話ではなく、単なる分量の単位です。総文字数を四百で割れば出ます——十万字なら二百五十枚、という具合に。
注意すべきは、換算が「文字数÷四百」であって「実際に組んだページ数」ではない点です。行頭の空きや会話の改行を含めて数えるソフトもあるため、応募先が字数と枚数のどちらを基準にしているかは必ず確認してください。食い違うと数割ずれます。
規定枚数に少し足りない、少し超えるという理由で落とされる例は珍しくありません。内容以前の問題なので、ここだけは機械的に確認する価値があります。
応募でよく指摘される五点
段落の字下げ
地の文は段落の頭を一字下げます。会話のかぎ括弧は下げません。ウェブに書き慣れていると字下げなしが癖になりますが、紙を前提とする応募先ではここが最初に目につきます。
かぎ括弧の終わり
会話の末尾では句点を打たず、かぎ括弧で閉じるのが一般的です。「行こう。」ではなく「行こう」。細部ですが、原稿全体で統一されているかどうかは読み手にはすぐ分かります。
三点リーダーとダッシュ
三点リーダーもダッシュも二つ重ねて使うのが慣習です。中黒を三つ並べたり、半角ピリオドで代用したりすると、印刷や縦組みで崩れます。入力の段階で正しい記号を使っておくほうが結局早いです。
数字と英字の扱い
縦組みを想定するなら漢数字が基本で、横組みなら算用数字でもかまいません。決め方より一貫性が重要です。同じ原稿の中で「三人」と「3人」が混在している状態がいちばん目立ちます。
ルビと傍点
応募先ごとに指定の書き方があります。独自の記法で埋め込むと、先方の組版で意図しない文字列として出てしまいます。指定がないときは使用を最小限にするのが安全です。
縦書きはいつ必要か
執筆中は縦書きでなくても困りません。縦組みが本当に要るのは、読者に届く形——紙の本、電子書籍、あるいは縦組み指定のある応募——を作る段階です。
執筆段階。横書きで書いても文章は変わりません。むしろ推敲では、縦横を切り替えて読むと見落としていた重複に気づきやすくなります。
提出段階。指定があるならそのとおりに。DOCX や PDF で出力してから体裁を整えるのが最短で、執筆中の環境を縦組みに合わせる必要はありません。
電子書籍。EPUB では縦組みは読書アプリ側の設定でも切り替わります。本文中の記号が正しく入力されていれば、あとは出力の工程で吸収できます。
表記ゆれをどう潰すか
登場人物の呼称を一覧にする。同じ人物が章によって名字と下の名前で呼ばれていないか、全体検索で確かめます。
漢字とひらがなの方針を先に決める。「時」と「とき」、「事」と「こと」。決めてから書けば直す作業はほぼ消えます。
推敲は最後に一度だけ通しで。書きながら直すと、結局は消える文を磨くことになります。
中身の組み立てについては長編を支える五つの決定を、発表の場についてはウェブ小説の連載をご覧ください。
よくある質問
原稿用紙換算の枚数はどう数えますか。
総文字数を四百で割るのが基本です。ただし応募先が実際の組みページを求める場合もあるため、募集要項の表現を確認してください。字数基準と枚数基準では結果が数割ずれることがあります。
執筆は縦書きでないといけませんか。
その必要はありません。縦組みが要るのは提出物や書籍の形にする段階だけで、文章そのものは横書きで書いても変わりません。推敲時に縦で読み直すと誤りに気づきやすい、という利点はあります。
会話の末尾に句点は打ちますか。
通例は打たず、かぎ括弧で閉じます。応募先に指定があればそちらが優先です。どちらにせよ、原稿全体で統一されていることのほうが個々の選択より重要です。
提出はどの形式が無難ですか。
指定がなければ DOCX か PDF です。DOCX は先方が手を入れやすく、PDF は体裁が崩れません。テキストファイルのみ受け付ける応募先もあるので、要項の指定を最優先にしてください。
表記ゆれの確認にAIは使えますか。
機械的な作業には向いています。呼称の不一致、繰り返し、読みにくい長文などを拾い出せます。どの表記を採るかという方針はご自身で決めてください。それは作品の声に関わる判断だからです。